それまで静かに寝ていたメス犬は、日が落ちて、暗くなってくると落ち着かなくなりました。ワンワン!と吠えだして、ベランダを行ったり来たりするようになりました。
「どうしたんだろう?」と様子を見に行くと、少し遠くを見つめながら、すでに目的地へと想いを馳せているようでした。彼女の中では行先が決まっていたのかもしれません。自分の居場所はここではない、と犬が強く感じているような印象を受けました。それと同時に、昼からずっと寝ていて、そろそろトイレの時間かもしれない、とも思いました。庭を見渡してみても、用を足した形跡はありません。とりあえず、近所に散歩へ連れて行こう、そう思い立ちました。
散歩用の、太めのリードを持って、係留用の金属製コードを取り外した、その瞬間でした。犬があっという間に逃げ出してしまったのです。あまりに突然で、声もでませんでした。あわてて追いかけると、すでに近所のアパートのごみ置き場で匂いをかいでいました。しかし、そこでも彼女の知っている匂いはしなかったのでしょう。今度は逆方向へ向かって、すごい速さで走っていきました。あの、枯れ枝のような細い足で、あんなに早く走るなんて!犬が走り去った場所へ到着したときには、もう、暗闇にまぎれて見えなくなってしまっていました。
「どうしよう!」。これが最初に私の頭をよぎった言葉でした。どうしよう。どうしよう。せっかくつかまえたのに。保健所につかまったら、どうしよう。だいじょうぶかな?車にひかれたりしないだろうか?さんざん心配していると、ふと、「もしかして、これで良かったの?」という疑問が浮かびました。
つかまえたのは、私のエゴだよな。私が安心しても、あの犬にとっては安心できなかったんだな。
もしかしたら、あの犬は痴呆症が入っていたのかな?動物病院の先生が言ってたっけ。
どこか、目的地がはっきりあったんだろうな。例えそれが、痴呆症によって思い起こされる場所だったとしても、それは、彼女にとって、本当に行く必要がある場所だったのだ。
私は不安と、軽い絶望と、がっかりした気持ちでいっぱいでした。ああ、私に出来ることはなかったのだろうか。余計なことをしてしまったのかな。力になりたかったのに。
対どうぶつの場合、何が相手にとって幸せか、ということを熟慮することは非常に大切です。動物を保護するときには、「可哀想に。」という、優しい気持ちだけでは終われないからです。保護しようと試みる人間が「真の強さ」を発揮するときに、お互いが本当に必要なものを提供することができます。
私は犬が走り去った方角をぼうっと、つったったまま見つめていました。
2012/06/10
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【自己紹介】 中村久美恵 BBSH2011年卒業BHSプラクティショナー💖自然と動物と体感型グループワークが大好きなエネルギーヒーラーです💛最近、猫愛いっぱいのオンラインショップを始めました。良かったら こちらから どうぞ! こんにちは、中村久美恵です^^ 田舎の散歩道...

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