2012/05/26

のら犬と私(2)

動物病院では改めて、のら犬保護の厳しさを知ることになりました。受付の方に話して、どなたか探している方がいたらいけないと思って・・・とお話しすると、「さあ・・・。」というお返事。よくよく聞くと、一時保護等はしておらず、連れてきた人が飼い主になるなら健康状態を診察します、ということでした。代金をもらえないのなら、診ることはできません、ということです。(当たり前ですが)うちにはすでに犬がいるし、貸家だから現実的には無理です、とお話しすると、受付の方は、迷子掲示板に乗せるにしても連絡先が必要となるので、やはり、私の電話番号が必要になるとのことでした。

結局、のら犬や迷子犬を保護しても、そこから先、なのです。動物管理センター(地域によっては動物愛護センター、動物保護センターなどとも呼ばれるようです。要するに、保健所の一部です。)へ連れて行けば、3日間のみ保護され、あとは二酸化炭素ガスで殺処分です。地域によって、保護期間に違いはあるものの、法律上は3日間となっているため、文句は言えません。ボランティアセンターへ連れて行けばいいかもしれません。けれど、もしかしたら飼い主が探しているかもしれないことが気にかかります。それに、ボランティアセンターがどこにあって、どういう人が運営しているのかという情報を知らないまま、連れて行くのにも抵抗がありました。自分では飼えない、動物管理センターは避けたい、ボランティアセンターは余裕があるのかどうかわからない。困った私は、とりあえず、もう1軒の動物病院へ連れていく事にしました。

女の子たちは病院の外で待っていたのですが、結果を聞いて残念そうな顔になりました。「ここにはいられないから、別の動物病院へ行くね。そこは歩いていくと、とても遠いから、ここから帰ったほうがいいよ。」すると、一人の女の子が「だいじょうぶ!ここからどのくらい?」自分はまだまだ元気だから、まだ歩ける!と言いました。もう一人の女の子は心細そうな顔になって、迷っている感じでした。明らかに二人の間で意見が異なることを見てとった私は言いました。「ここから、40分くらいは歩くかも。すっごく遠いから、ここでやめたほうがいいよ。ほんとに、お昼ご飯食べにおうちに帰りな。ね?お母さんが心配するといけないから。」すると元気な女の子がいいました。「心配しないもん。うちね、親ね、離婚したからお母さんいないもん。おばあちゃんだけ。だから、誰も心配しない!」「そう・・・」そう言って、もう一人の女の子の顔を見ました。彼女は子ども用の携帯電話を持っていて、「お母さんに聞いてみる。」と言いました。電話の向こうでお母さんは、早く帰ってらっしゃい、と言ったそうです。なぜなら、彼女がお母さんに言ったのは「ママ?あのねえ、犬がおるよ。すごくね、やせとる。」だけだったからです。

子どもは話すのに時間がかかります。それは大人のように語彙がないからでもあるし、いま、自分が置かれている状況を大人のように全体から把握することが難しいからでもあります。彼女のお母さんが早く帰ってらっしゃい、と言ったことは当然で、犬よりも早く帰ってきて、お昼ご飯を食べなさい、ということでしょう。

さて、帰りたい女の子と家に帰っても面白くない女の子。困りました。私は、帰りたくない女の子に歩きながら話しかけました。「お腹すいてない?」「うん!平気。まだまだ歩ける!」途中で投げ出すことはいけないことのように感じているようでした。責任感の強い子なのでしょう。「あのねえ、」彼女の肩を片手で一瞬抱いて言いました。「お母さんはおらんでもね、おばあちゃんが心配してると思うよ。おばあちゃんはね、言わんだけよ。」小学校低学年の彼女が、自分を心配してくれる人は誰もいない、と言ったことに、私の心はチクチクととげで刺されたようになっていました。自分のことを誰も心配なんかしてくれない、とこんな幼くして信じてしまうなんて。お父さんが離婚したのはあなたのせいじゃない、心配していないから離婚したわけじゃないんだよ。「えー、でもね、おばあちゃんね・・・・。」

自分の事を心配してもらうためには、自分のことを好きになってもらわなければならない。
自分の事を好きになってもらうには、一生懸命頑張らなくてはいけない。
だから、途中でやめるなんてダメで、とことん、頑張らなくっちゃ。

彼女の中の小さな先生が、こう語っているようでした。彼女は自分の自転車を押しながら一緒に歩いてきてくれたのですが、結局、「自転車をここに置きっぱなしで行って、(その間に自転車を)取られたら困るんじゃない?」と言った私の一言に思いとどまりました。福岡県は自転車の盗難、乗り捨てが全国ワースト10に入ります。冗談ではなく、本当に盗難が多いのです。

元気な彼女を説得している間に、携帯電話の彼女は「お腹が痛い。」としゃがみこんでしまいました。これ以上遠くへ行きたくないという思いを消化しきれなかったのか、朝ごはんに何か悪いものを食べてしまったのかはわかりません。「だいじょうぶ?どんな風に痛い?」と顔を覗き込みました。

「じゃあ、連絡します!電話していいですか?」と元気な彼女。友だちを気遣って、さらに自転車のことで行きたいという思いが吹っ切れたのでしょう。「うん、いいよ。じゃあ、これね、私の連絡先。」と持っていた名刺を渡しました。「電話がかかってきたときにわかるように、お名前だけ聞いておこうかな?」と私が言うと、彼女は「私、メモ持ってます。ペンもあります!」と下げていたポシェットから可愛らしいピンク色のメモを取り出して、自分と友達の名前を書いてくれました。「どうもありがとう。助かったあ、ここまで一緒に来てくれて。ありがとうね。」お礼を言ったのは、自分は本当に他人の役に立った、と感じてほしかったのです。あなたは心配される価値があるんだよ。

お腹の痛かった女の子も、私たちのやりとりを聞いて安心したのか、ようやく立ち上がりました。「気を付けて帰るんだよ。帰り方、わかる?」と聞くとうなづきました。二人は、暑い初夏の日差しに照らされて、だんだん小さくなりました。犬を見ると、暑そうにハアハア言って、「まだ?」と文句を言いたそうな顔をしていました。







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【自己紹介】 中村久美恵 BBSH2011年卒業BHSプラクティショナー💖動物が大好きなエネルギーヒーラーです💛犬2匹猫30匹をお看取りした経験から、ペットロスのヒーリングサポートをしています。こんにちは、中村久美恵です^^ 今日もあなたが目覚めるメッセージ♡お届けします。 ...