片目のチャトランの、大きな目がケンカが原因なのか、まぶたを腫らして帰ってきたことがありました。目は治ることがなく、だんだんと細い目になっていきました。猫の爪には毒があるといいます。世界が見づらいだろう、と可哀そうに思いましたが、もしかしたら、彼は世界を見たくなかったのかもしれません。それでも、何かの気配を感じるとじっと耳をそばだてて、ギリギリまでじっと目をこらして、信じられない俊敏さで動くのでした。
ベッドを独り占め |
2月のある日、私は新しい家に引っ越すことにしました。チャトランはその数日前から、私に愛想をつかしたかのように他人行儀にふるまっていました。「前はあんなに甘えてくれたのになあ。」と少しさみしく感じつつも、自分の気のせいかなあ、とも思ってみたり。けれど、チャトランはその日の朝でていったきり、戻ってきませんでした。
引っ越したのは古い家だったので、あちこち修理が必要でした。ペンキを塗ったり、磨いたり、部品を替えたり、毎日毎日掃除をしました。忙しさにかまけて、チャトランのことは少しの間忘れていました。
ふと、「チャトラン、どうしてるかなあ。家には入れてもらえないだろうからなあ。」と心配になることがありました。寒いだろうなあ、チピと仲良くしてるかなあ、と気になっても「まあ、しょうがないか。」とあきらめていました。
今にして思うと、チャトランは私の自立を助けてくれました。あそこで甘えられたら、きっと、引っ越す時期を逃したかもしれません。つんけんした態度だったから、チャトランのことをあまり心配せずにすんだのでしょう。
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